株式会社みらい翻訳(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:鳥居大祐)は、2026年8月9日(日)に共愛学園前橋国際大学(群馬県前橋市)で開催された、サイエンスアゴラ連携企画(*1)「サイエンスアゴラ in 前橋 多言語交流DAY」に協力企業として参加し、代表取締役社長 鳥居大祐が登壇しました。本イベントは、立命館大学人間科学研究所CAREFILプロジェクト、NPO法人共に暮らす、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の共催によるものです。学校や生活の場面で生じる言語の壁について、外国ルーツの子どもが家族の通訳を担う「ことばのヤングケアラー」の課題も含めて取り上げ、AI翻訳がその壁をどこまで下げられるかを、当事者・研究者・企業・地域の実践者が話し合いました。当日は、リアルタイムAI音声翻訳サービス「リスニングアシスタント」(*2)のデモンストレーションを実施。午後のアート体験プログラムでは、日本語に不安のある参加者と日本人ボランティアが、それぞれの母語のまま同サービスを介して会話しました。

本件のポイント
- 生活・教育の場面で生じる言語の壁に、AI翻訳は何ができるか:
進学や入学の手続きの案内をはじめ、生活に必要な情報が保護者に届かないこと、病院や役所で日本語のできる子どもが大人同士の通訳を担うこと(「ことばのヤングケアラー」)など、現場で起きている課題を共有。AI音声翻訳を用いて、話す必要のある人同士が直接会話できる環境をつくることで「子どもが子どもでいられる」時間を増やせる、という論点を提示しました。
- 多言語リアルタイム翻訳の実演と、当日のプログラムでの活用:
日本語・英語・中国語に加え、NPO法人共に暮らす代表理事のアジズ・アフメッド氏によるウルドゥー語の発話をその場で日本語に訳出するデモを実施(ウルドゥー語は本イベントに合わせて対応言語に臨時追加。標準では未対応)。午後の親子向けアート体験では、日本語に不安のある参加者と日本人ボランティアが「リスニングアシスタント」を介し、それぞれの母語のまま会話する場面が生まれました。
- 自治体・NPOでの導入時に問われる疑問に回答:
会場から寄せられた質問を受けて、会話内容のログを保持しない設計方針、感情やニュアンスの翻訳の到達点、生成AIの計算コストと公平なアクセスの課題について、それぞれ現在地を説明しました。
背景:外国人住民の増加に、日本語教育・通訳の担い手が追いついていない
出入国在留管理庁の発表によると、2025年末時点の在留外国人数は412万5,395人で、前年末から9.5%増加し、初めて400万人を超えて過去最高を更新しました。群馬県は2021年に多文化共生・共創推進条例を制定するなど先行的な取り組みを進めています。
イベントで登壇した共愛学園前橋国際大学の西舘崇教授は、前橋市の外国籍住民が2015年以降増加を続け、2024年時点で市の人口の約3.1%を占めること、近年は大泉町を上回り県内で3番目に外国人住民が多い自治体になったことを報告しました。一方で、日本語教育の体制は追いついていません。文部科学省のデータでは、群馬県で日本語教師1人が受け持つ在留外国人は146人にのぼり、都道府県の中では富山県に次ぐ多さです。日本語教育を実施している市町村も、県内35市町村のうち14市町村(約40%)にとどまります。住民の増加に支援体制の整備が追いつかず、通訳や翻訳をボランティアや子ども本人が担わざるを得ない状況が生じていることが、AI翻訳が現場で必要とされる直接の理由となっています。
「ことばのヤングケアラー」――通訳を担う子どもたちの現実
NPO法人共に暮らす 代表理事のアジズ・アフメッド氏は、自身の経験を交えながら、外国ルーツの子どもが病院や学校で保護者と大人の間に立つ状況を紹介しました。通訳の負担は語彙や文法だけではありません。痛みを訴える母親と「様子を見ましょう」と伝える医師の間で、子どもが保護者を安心させるために説明を脚色してしまうといったケースもあると述べ、子ども本人への支援だけでなく、周囲の大人が直接コミュニケーションできる環境づくりが必要だと指摘しました。
日本語・学習支援教室VAMOS 副代表の神谷敦子氏からは、11か国にルーツを持つ子どもたちが通う教室の実情が共有されました。高校入学に必要な書類一式を生徒本人が教室に持ち込み、ボランティア数名で内容を確認して手続きを説明した例など、本来は保護者が担う場面を子どもが引き受けている実態が語られました。同教室は行政からの委託を受けず助成金とボランティアで運営されており、開催は月2回、支援者は約13名。一方で前橋市内には日本語指導が必要な子どもが100人以上いると見込まれ、支援の担い手不足が課題となっています。神谷氏は、保護者への連絡で、無料で使える翻訳ツールや生成AIがすでに日常的な道具になっていることにも触れました。
みらい翻訳の講演:訳出の「速さ」が、会話が成立するかを左右する
みらい翻訳の鳥居は、リアルタイムAI音声翻訳「リスニングアシスタント」のデモを交えながら、技術の現在地を解説しました。
従来の音声翻訳は、発話が一区切りついてから訳文を出すため、話し手が次の話題に移った後に訳が届き、聞き手が取り残されます。「リスニングアシスタント」は発話を細かい単位で訳し進めることで、人間の同時通訳に近い体験を実現しています。同時に、日本語と英語のように語順が大きく異なる言語では、文をまたいで文脈を保持し、訳語を確定できる時点まで待って出力する処理を行っていることを説明しました。
さらに、話者が英語、中国語…などと言語を切り替えても、設定した言語へ翻訳し続ける多言語同時対応を実演。アジズ氏がウルドゥー語で話し、それがその場で日本語に訳される場面もありました。ウルドゥー語は公式の対応言語には含まれていませんが、パキスタンにルーツを持つアジズ氏が登壇することを踏まえ、本イベントのために臨時で追加したものです。
鳥居は、多文化共生の現場でAI翻訳に求められる要件として、(1)母語で話せること、(2)会話のストレスにならない速度であること、(3)完璧でなくても道具として使えることの3点を挙げました。そのうえで、「保護者と教員が直接話せるようになれば、子どもが常に通訳役を担わずに済み、子どもが子どもでいられる」という現場からの気づきを紹介し、AI翻訳の価値は訳文の精度そのものだけでなく、対話の最初の一歩を生み出す点にあると述べました。
パネルディスカッション:セキュリティ、感情表現、費用負担―AI翻訳導入で問われる論点
立命館大学産業社会学部 斎藤真緒教授の進行で行われたパネルディスカッションでは、会場から集まった質問をもとに議論が行われました。みらい翻訳への主な質問と回答は以下のとおりです。
- 会話の内容は保存されるのか、個人情報は守られるのか:
みらい翻訳のサービスでは、音声翻訳・文字翻訳を通じて会話内容のログを一切残さない設計としており、入力内容がAIの学習に二次利用されることもないため、センシティブな内容を含む会話でも安心して利用できることを説明しました。「リスニングアシスタント」はもともと、企業で行われる外国語のウェブ会議での利用を想定して開発されたサービスであり、企業・官公庁での利用に求められる水準のセキュリティを前提としています。
- 感情やニュアンスまで翻訳できるのか:
声のトーンや言い淀みを訳文に反映することは技術的には可能になりつつある一方、現時点では文脈を踏まえて内容を正確に伝えることを優先している段階であると回答。感情の伝達は対面のコミュニケーションが担う領域が大きいとの認識を示しました。
- 誰もが使える環境はつくれるのか:
音声認識・生成AIを用いたサービスは計算資源のコストが大きく、そうした環境を実現するには、自治体や国による支援を含めた仕組みづくりが必要だという見解を述べました。
また、「AI翻訳が進化すれば日本語学習は不要になるのか」という問いに対しては、立命館大学生命科学部の山中司教授から、日本社会は生活・進学・就労のいずれの場面でも高い日本語運用能力を要求するため、AIによって初期のハードルは下がっても日本語教育は不可欠であり、場面ごとに技術と学習をどう配分するかを議論すべきだとの指摘がありました。西舘教授、神谷氏からも、「情報を正確に伝えること」と、「個々に寄り添い、必要な支援や制度につなぐこと」は別の営みであり、後者は人が担い続けるという意見が示されました。
みらい翻訳の鳥居は、これらを受けて「AI翻訳はあくまで道具であり、まず現場で困っている人をどう支えるかが中心にある。その支援を促進する道具として、どうあるべきかを考えていく」と述べました。
イベント概要
令和8年度 未来共創推進事業 サイエンスアゴラ連携企画
「サイエンスアゴラ in 前橋 多言語交流DAY」
日時:2026年8月9日(日)10:00-15:00
会場:共愛学園前橋国際大学(群馬県前橋市小屋原町1154-4)
共催:立命館大学人間科学研究所CAREFILプロジェクト/NPO法人共に暮らす/科学技術振興機構(JST)
協力:共愛学園前橋国際大学/株式会社みらい翻訳
運営:一般社団法人インパクトラボ
後援:群馬県/前橋市
登壇者:
<シンポジウム>
山中 司 氏(立命館大学生命科学部 教授)/斎藤 真緒 氏(立命館大学産業社会学部 教授)/アジズ・アフメッド 氏(NPO法人共に暮らす 代表理事)/西舘 崇 氏(共愛学園前橋国際大学 教授)/神谷 敦子 氏(日本語・学習支援教室VAMOS 副代表)/鳥居 大祐(株式会社みらい翻訳 代表取締役社長)
<体験プログラム>
竹本 智志 氏(東京大学大学院 工学系研究科 博士課程)/波多野 多恵子 氏(創価大学 文学部 講師)/加藤 望 氏(福山市立大学 教育学部 児童教育学科 准教授)
https://www.carefil.net/post/20260809event
AI翻訳の活用が想定される場面―学校、自治体の窓口、医療機関、日本語教室、企業
本イベントで示された課題は、前橋市に固有のものではありません。外国人住民の増加に支援体制が追いついていない地域では、次のような場面で言語の壁が生じます。AI音声翻訳が担えるのは、そこで誰かが通訳役を引き受けなくても会話が成立する状態をつくることです。
- 学校:保護者面談、進路説明会、入学手続きの案内
- 自治体の窓口:転入・住民登録、就学、福祉・子育て、国民健康保険の手続き案内
- 医療機関:問診、治療方針の説明
- 地域日本語教室・NPO:保護者への連絡、進学ガイダンス、面談
- 企業:外国人従業員への安全教育、就業規則や人事制度の説明、面談
自治体の制度名や施設名、地域独自の事業名など、その地域・組織でしか使われない固有名詞は、AI翻訳が意図した訳語を出せない場合があります。「リスニングアシスタント」では、標準機能であるフレーズリストに用語を登録することで、こうした固有名詞の訳語を指定できます。手続きや制度の説明といった正確さが求められる場面では、頻出する用語をあらかじめ登録しておくことに加え、重要な部分を人が確認する運用を組み合わせることが有効です。
今後の展望
みらい翻訳は今後も、多文化共生を推進する自治体・企業・教育機関・NPOなどと連携しながら、技術が担える部分と人が担う部分を見極め、さまざまな現場で使えるAI翻訳の開発・提供に取り組んでまいります。
(*1) サイエンスアゴラ/サイエンスアゴラ連携企画:
サイエンスアゴラは、科学技術振興機構(JST)が2006年から毎年開催している、科学と社会をつなぐ国内最大級のオープンフォーラム。2017年からは、各地域の大学等との共催により地域で対話の場をつくる「サイエンスアゴラ連携企画」も実施されており、本イベントはその一つとして開催されました。
https://www.jst.go.jp/sis/scienceagora/
(*2) リアルタイムAI音声翻訳サービス「リスニングアシスタント」:
日本語、英語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語の10言語に対応するAI音声翻訳サービス
https://miraitranslate.com/voice-translate/meeting/
<株式会社みらい翻訳について>
株式会社みらい翻訳は「言語の壁を取り除く」をビジョンに、世界のすべての人々に英語を母語とする人々と同じ体験を与えるべく、自社プロダクトAI自動翻訳「FLaT」「みらい翻訳Plus」を中心に、ランゲージサービスプラットフォーマーとして事業を展開しています。
■所在地:東京都渋谷区渋谷二丁目22番3号 渋谷東口ビル 2F
■代表者:代表取締役社長 鳥居 大祐
https://miraitranslate.com/company/