提供:コラボレーション 取材・文:はせがわひろこ 編集:高崎前橋経済新聞
「お好み焼き・もんじゃ焼き・鉄板焼きKANSAI」の歴史は1997年、太田市藤久良町の創業店「お好み焼きKANSAI」に始まる。現在、群馬県内に10店舗、埼玉県内に2店舗を展開している。運営は「コラボレーション」(本社=群馬県伊勢崎市)。
株式会社コラボレーション代表取締役:山崎健一さん
創業25周年を迎える11月、山崎健一社長が攻めの一手に出る。お好み焼き、もんじゃ焼きはいわゆる「粉物」で、ベースとなるのはご存知の通り小麦粉。山崎社長は「さらにおいしいKANSAIを目指そう。小麦粉を米粉に変えたらどうなるの」と、今からちょうど2年前に商品開発を始めた。
「お好み焼き・もんじゃ焼き・鉄板焼きKANSAI」は、定番だけでお好み焼き23種類、もんじゃ焼きが17種類あり、もんじゃ焼きはスープが4種類あることから味のバリエーションは68通りになる。山崎社長は「ベースの粉を変えるとなると、山芋粉や出汁粉などの配合を全て見直すことになる。すべてのメニューを新しい粉で試す。だいたい1品20回。特にもんじゃ焼きは4つのスープそれぞれのピークタイムの味をベストの状態に持っていくのが大変で、試食の回数は数え切れない」と振り返る。
もんじゃ焼き:博多明太子もちチーズ
もんじゃ焼きはその焼き方と食べ方に起因する「ピークタイム」がある。山崎社長はもんじゃ焼きのピークタイムを「2人だと10分、4人だと5分」と言い切る。
KANSAIで提供している1杯分のもんじゃ焼きは、15分で200ccの水分が蒸発する。水分がちょうど良く残っている状態がピークタイムで、ピークタイムは鉄板にたねを落としてから5~10分。一口目から味が濃いとピークタイムには味が濃すぎてしまう。かといって一口目に味が感じられなくては美味しさが半減する。その上、スープは定番の「ウスターベースのコク旨スープ」のほか、「あごだし和風スープ」「麻辣旨辛スープ」「とんこつスープ」とそれぞれに個性的。これらすべてのスープの特徴が生きる粉でなければならない。「特に難しかったのがとんこつスープとの折り合い。何度食べたかわからない。配合を変えながら、一口目、5分後、10分後と試していく。試食が1日6時間に及ぶこともあった」という。
お好み焼き:デラックスKANSAI焼き
2年の時間を掛けて仕上がった米粉のもんじゃ焼きは、焼きおにぎりのようなとでもいうかどこか懐かしい風味がする。お好み焼きもしかり。「小麦粉がいけないというわけではなく、日本人に馴染みの深い米、その粉は日本人の味覚の記憶を刺激するのかもしれない。米を食べている感覚になるわけではないのだが、小麦粉よりおいしい」と山崎社長。ベースの米粉は新潟県産だ。
米粉について農林水産省は「アミノ酸バランスに優れた米の高い栄養価を、ごはんとは違う食べ方で摂取できるのが魅力の一つ。小麦粉に比べて油の吸収率が低いので揚げ物に使うと冷めてもサクサク感が長く続き、さっぱりヘルシーな仕上がりに。小麦粉より消化が良く、胃もたれしにくいなどの特徴がある」(広がる米の可能性 カラダにやさしい「米粉」の魅力より)としている。
米粉と聞くとアレルギーをお持ちの方や、お子さんにアレルギーがある方は「もんじゃ焼き、お好み焼きを一緒に食べられる」と期待を持たれるかもしれない。
KANSAIのもんじゃ焼き粉・お好み焼き粉の製造を手掛ける「日東富士製粉」(本社=東京都中央区)」の担当者は「生産工場でのコンタミネーションの関係上、今回のミックス粉については小麦アレルギー対策におけるグルテンフリーとは言えない」と話す。
山崎社長は「なるべく多くの人にKANSAIのもんじゃ焼き、お好み焼きを楽しんでほしいと思うが、グルテンだけでなく甲殻類などアレルギーをお持ちの方には食べてもらうことができないのが現状」とも。
小麦粉から米粉への切り替えに伴い、山崎社長は「米油」に注目。テーブルにセットする油を「なたね油」から米油に切り替えた。
米油の製造を手掛ける「築野食品工業」(本社=和歌山県伊都郡かつらぎ町)の担当者は、米油の特徴を「におわない・へたらない・くせがない」と話す。築野食品工業は1960年に米油の製造を始めた。米油は精米の際に不要となる「米ぬか」から抽出する。玄米に対し米ぬかは10%、油分はこの内の20%で、元の玄米から換算すると1%程度しかない貴重な油だ。
「におわない・へたらない・くせがない」理由は、チコちゃん流に言えば「米油には天然栄養成分が豊富に含まれているから~」。
築野食品工業調べ
米油は他の植物油に比べ天然栄養成分のビタミンなどの含有量が多く、加熱や酸化に強い。天ぷらなど私たちが想像しやすいメニューのほか、ポテトチップスの揚げ油、ケーキなど焼き菓子の練りこみ油などに使われており、知らぬ間に摂取していた身近な油なのだ。現在、学校給食で使用される油の約4割が米油だというから驚く。
山崎社長は「油のにおいは油の酸化が原因。店内は換気、清掃を徹底しているが、蒸気とともに浮遊し、そして着地する油を全て取り除くことは至難の技。酸化しづらいということは、店内のにおいをさらに抑えられるはず」と期待を寄せる。
高崎緑町店
米粉への切り替えは25周年を目指し、前述の通り2年前に着手した。2020年10月。新型コロナは8月のピークを超え、多くの都道府県で大幅な増加がみられない一方で、急激な減少もみられない横ばい状態。「年末までには」と期待を寄せるも叶うことはなかった。
鉄板焼き:黒毛アンガス牛肩ロースステーキ
そしてこの2年間、特にここ数カ月で食肉・水産物・粉・野菜・油など原材料のすべてとエネルギー価格が高騰した。KANSAIのすべての店舗の直近のガス代の合計は166%に、電気代は130%。このままいけばガス代だけで年間800万円を超えるコスト高になる。
そのためKANSAIは11月1日、メニュー価格を改定する。値上げ幅はアラカルト・単品商品で20円~100円程度、食べ放題コースは200円~500円程度。これに伴い100分だった食べ放題コースを120分に、120分を150分に、150分だった食べ放題宴会コースを180分に変更する。
山崎社長は「さらにおいしいもんじゃ焼き、お好み焼きを目指して始めたプロジェクトの実現と、値上げが重なってしまったことは本当に残念だ。確かに小麦粉となたね油と比べれば、これらがともに値上がりしたとはいえ米粉と米油の方が割高。それでも当初から値上げのために開発を始めたわけではなく、おいしいものを提供したい一心だった。本来ならコストを吸収できると考えていた。しかし、いろいろなコストがここまで上がっては」と顔をしかめる。
そしてもう一つ。これに合わせ、正社員の給与をベースアップする。山崎社長は「昨今のガソリン、電気、ガス代に加え食料品も値上がりしている。従業員の家計支出も増えている。従業員の生活を経済的に支えるには今は給与をアップするのが最善であり、経営の責任でもある」と話す。
アルバイトの時給は土日一般1,100円~、高校生も1,050円~、夜間は一般1,375円~と群馬県の最低賃金895円を大きく上回っている。山崎社長は「働きがいとは働いて給与を手にして、その額に満足することも大切。接客に全力を出してもらうために、やりがいのある環境をつくる。これも私の信条」と力を込める。
KANSAIの新しい挑戦は11月1日に幕を開ける。
株式会社コラボレーション
〒372-0045 群馬県伊勢崎市上泉町258番地
電話 0270-23-4774