群馬県のご当地魚ブランドニジマス「ギンヒカリ」、なぜ身近で食べることも、その姿を見ることもできないのか探ってみた。
群馬県水産試験場川場養魚センター(利根郡川場村)で他のニジマスより成熟が1年遅れる家系が見つかった。1987(昭和62)年、同センターはこの家系の遺伝的固定化を目的に選抜育種を始める。固定化に成功した2000年、ギンヒカリがデビューした。
現在、ギンヒカリの生産者は約十数軒あり、2001年に1.2トンだった生産量は2010年度には26トンにまで増加した。しかし、県内でギンヒカリを食べることができるのは温泉地の旅館やホテルが主で、そうそう気軽に食べられない。
生産者の一人は「県内のマス類(イワナ、ヤマメ、ニジマスなど)1000トンの消費量の内、県内産は180トン程度。市場で取引されているのは県外産で、県内産は一般向けの流通経路がなく、養魚場から旅館やホテルに流れる。ギンヒカリも同じ。その上、ギンヒカリはブランドの規定を満たさねばならず生産に手がかかり、これ以上の生産は無理」という。
ご当地魚には染色体操作によるものが多いが、もともと3年成熟のギンヒカリは3年たつとメスは卵、オスは精子を持ち、産卵後は死んでしまう。そのため歩留まりが悪く、確実な出荷先がなければやみくもに生産量を増やせない。生産量が少なく、生産コストがかかるため価格が下がらないというのが実情のようだ。
県内だけでなく都内のホテルやレストランなどの需要もあるが、フェア的な扱いが多く「今年も都内に出荷したが、2カ月間だけだった」という。
ちょうどいいタイミングに出荷できなければ死んでしまうギンヒカリ、「だったら別の種類を育てる方がいい」と明かす生産者も。
EPA やDHAが豊富で低脂肪高タンパク、食感や味は「鮭児(けいじ)」に匹敵するというギンヒカリ、県民が気軽に口にできる日はまだまだ遠いようだ。