ボクシングの日本スーパーウェルター級、新井恵一さん(高崎ジム)が10月26日、引退を公表した。3月22日の日本スーパーウェルター級タイトルマッチが最後の試合となった。
新井さんに今の心境を尋ねると「寂しいですよ」と目を潤ませた。
新井さんは1998年、21歳でボクシングを始め、1999年にプロテストに合格。2001年9月に臨んだデビュー戦では吉田憲太郎選手(沖ジム)を2ラウンドKOで下した。
プロテスト合格からデビュー戦までの間、新井さんは体調を崩し1年ほどボクシングができなかった。「手足の震えが止まらず、いろいろな検査を受けたが原因がわからなかった。怖かった」(新井さん)と振り返る。そのためデビュー戦は「試合ができただけでうれしかった。もうボクシングはできないかと思っていたので、どん底からはい上がった感じだった」という。
新井さんは2006年9月、自身初のタイトルマッチに臨む。16戦目にして迎えた大舞台で大曲輝斉選手(ヨネクラジム)を追い詰め、迎えた9ラウンドでリングに沈んだ。判定では新井さんが上回っており、まさかの逆転負けで日本タイトルを逃す。
「ドーハの悲劇ですよ。KOされて身体は動かせないけれど『あ~やっちゃった』という意識はあった」と笑う。この後、新井さんは2勝5敗と負けが続いたが、反対に応援してくれる人は増えていった。
「パンチもスピードもある方ではないので地味なボクシングなのに、多くの人に喜んでもらえたことが不思議だけれどとにかくうれしかった。ただがむしゃらに勢いだけで戦っていた自分が目の前のタイトルを逃したことで変われた。負けても負けても応援してもらえたのは、あきらめないで頑張ればいいんだと思えるようになったから」。
今後は家業の「美ゆき食堂」(高崎市新町)で一人前になることを目指すという新井さんの目下の悩みは、11月1日に開催される「しんまち大道芸まつり」で販売するソースカツ丼の仕込み数。「当初500個を予定していたが、500個でいいかどうか…」と頭をかいた。